人材開発によるソリューション事例

三井物産グループの未来をつくる、
私たちのソリューション事例。

キャリア形成

自律的なキャリア形成

当社では、三井物産社員や三井物産グループ会社社員に向けて、キャリア形成を目的とした年代別のキャリアデザイン研修を実施しています。その中のひとつ「キャリアデザイン研修30’s」をご紹介します。

本研修は、三井物産における「自律的なキャリア形成」の支援策として、ワークキャリアに焦点を当て同社の30代社員を対象に実施しているものです。
一般的に30代半ばからは、マネージャーを目指すのか、あるいは専門性を深めたエキスパートを目指すのかなど、重要なキャリア選択を迫られる年代特有の悩みがあります。不確実で変化の激しい現代の環境において、40代を迎える前に自身のキャリアについて振り返り、今後のキャリアを主体的に作り上げることを意識していくことが重要だと考えています。

業務が忙しいなかでも参加しやすいように半日というコンパクトな時間設計で行っています。

研修の主な目的は以下2点です。

  1. 自律的なキャリア形成に必要な知識や考え方を学び、社員が自らのキャリアに対してオーナーシップを持つ
  2. 今後のキャリア形成にあたり、自己理解を深めるとともに具体的な行動計画を策定する

それでは、プログラム内容を紹介していきます。

「三井物産における自律的なキャリア形成」について理解する

まず、研修の冒頭に「三井物産における自律的なキャリア形成」についての講義を行います。会社からも全社員に向けて「自律的なキャリア形成」を促すメッセージは発信されていますが、研修の主催実施側から直接伝えることで、受講者がメッセージに対し理解をより深め、研修参加およびキャリア形成への意識を一層高めることを目的としています。
なお、一般的に自律的なキャリア形成とは、個人が自身のキャリアや成長に関心を持ち主体的にキャリア形成に取り組んでいる状態を指しますが、三井物産における自律的なキャリア形成とは、顧客・パートナーから高く評価される「自分ならではの強みを主体的につくること」と定義されています。
三井物産では、事業の特性上、不確実性の高い事業の中で一人ひとりが変革をもたらす存在になることが重要であり、社員が多様な機会を活かして主体的にキャリアを作り上げていくことこそが、顧客やパートナーからの評価に繋がると考えているからです。

これからの時代においてキャリアを考える際のポイントを学び、明日からの行動変容を促す

研修への参加意識を高めた後、外部講師による本格的な講義に入っていきます。
過去を振り返って棚卸し、現在の自分を見つめ直す。その後、未来にどうなっていきたいのか、そのためには何をしていくのかを考えます。講師からの一方的な講義のみにとどまらず、途中でグループワーク・個人ワークを織り交ぜながら進んでいきます。

①環境変化とキャリアを考えるポイントを理解する
研修の前半では、外部の環境変化を知り、会社からのメッセージとは別の視点からキャリア自律の必要性の理解を促します。そしてフレームワークを使いキャリアを考える際のポイントを掴んでもらいます。

  • 環境の変化やエンゲージメント、環境変化に伴う個人と組織の関係性の変化、プロティアンキャリアなどの理論の講義を通じて、近年のキャリア観の変化への理解を促します。
  • Will/Can/Mustというキャリアデザインのフレームワークを用いて、自身のキャリアを捉え直します。

このフレームワークでは、3つの輪の重なり(下図赤丸部分)を大きくしていくことを意識しています。Will(意志・価値観)を大切にしながら、自ら意図をもってCan(強み・能力)を広げていくことで、キャリアの可能性を切り拓いていくことが重要であることを伝えています。

  • 「山登り型(バックキャスティング)」と「川下り型(プランド・ハップンスタンス)」のアプローチを紹介します。

「川下り型」はただ流されるような受け身的なアプローチということでは決してなく、未来の可能性を見据えたうえで、目の前の仕事で挑戦と創意工夫を重ねながら自身の能力を高め、仕事経験自体が好機になるよう対応していくことであると説明しています。

②価値観、キャリア資本の観点から現在の自分を捉える
研修中盤では、自身のキャリアを考える際に軸となる価値観や、これまでに獲得してきたキャリア資本に焦点を当て、ワークやグループディスカッションを通じて自己理解を促します。

  • 自分の行動の源泉となる、特に大事にしている価値観を見つめ直します。多数の価値観ワードから、自身が今大事にしている価値観を選択し、グループメンバーと意見交換を行うことで自己認識を高めます。
  • これまでの経験を振り返り、その中で得てきたキャリア資本を棚卸し、自身がどのようなキャリア資本を持っているかを正しく認識します。その上で様々な問いを活用しながら、自分にとって重要な資本や獲得の傾向について考えていきます。

このパートでは、学びや経験を通じて、自身にとってより良い資本を意図的に獲得することが重要であることを、一貫して伝えています。

③キャリアイメージを描き、未来の可能性を考える
研修の終盤では、今後のキャリアイメージを描きます。
まず、現在の枠組みや実現可能性にとらわれず、10年後のイメージを複数の視点で描きます。研修という限られた時間のため、このワークではキャリアイメージの粒度ではなく、「複数の、様々な可能性を考える」ことを重視しています。そして、そのキャリアイメージの実現に必要な道筋を考えます。
また自己決定理論を紹介し、モチベーションを高めるためには、自ら選び、自らの意志で行っているという実感を持つことが重要であることを、三井物産の「主体的なキャリア形成」のメッセージに沿った形で説明します。

④具体的な行動計画を策定する
研修の最後に、具体的なアクションプランに落とし込みます。
獲得したいキャリア資本を得るために、まず何を行うか、何に取り組むかを明確にします。目の前の仕事に追われて後回しにならないよう、キャリアイメージの実現に向けて、研修終了後すぐにでも取り掛かることができるアクションを考え、最初の一歩を踏み出すことを後押ししています。

以上が、プログラムの説明となります。

受講者からは以下のような声が寄せられています。

  • 「自らのスキルを棚卸することで、自分がどういった決断をしてきたかを振り返ることができ、同時に今後の自分を考える糧となった」
  • 「同年代の今を意見交換する機会は貴重かつ有意義であり、キャリアについて考える良い機会になった」
  • 「これまで体系的に過去・現在・未来の取組について整理することがなかったが、非常によく整理できるフレームワークを使って考えることができた」
  • 「最も大きな学びは、今後どのようなタイミングであっても、今回のように自分のキャリアの棚卸と将来に向けたマイルストーン整理が出来るようになったこと」

また、この研修がその場限りのものとならないよう、今後も定期的に自らのキャリアを考える習慣を促すことを目的として、研修で策定したアクションプランの進捗状況や実施内容について、研修実施の3ヶ月後にヒアリングを行っています。
「従来とは異なる業界・人とのネットワーク構築に積極的になれた」「キャリアプランを意識するようになり、目の前の仕事の意義を再確認している」「自己決定理論を参考に、自己研鑽の内容をより主体的に選択することで、将来進みたいキャリアが以前よりも明確になってきた」などの声が聞かれ、自身のキャリアを主体的に考える重要性を認識し、自律的なキャリア形成に繋がっていることが窺えます。

チームビルディング

チームビルディングが求められる背景

チームの活性化やメンバー同士の距離感を縮めるためのきっかけづくりを目的とした「チームビルディング」は、数日かけて行う大規模なものからアイスブレイクのように短時間で行うものまで様々なものがあります。2000年代前半から実施されていましたが、昨今特にニーズの高まりを感じています。まずはその背景について説明します。

①コロナ禍による働く環境の変化
2020年、世の中全体がコロナ禍に伴う対応に追われる中、多くの会議がオンラインに切り替わり、在宅勤務やリモートワーク制度が急速に拡大、職場メンバー同士のコミュニケーションスタイルも大きく変化しました。これまでは会議の合間に何気ない世間話や旅行の手土産を渡すなど、日ごろから人と人との直接的なふれあいがありました。しかしオンラインが主流になると、会議の目的外のちょっとしたコミュニケーションが取りづらくなるため、チーム間の距離感が広がりやすいと感じた方が増えてきました。
こうした変化がチーム内におけるコミュニケーションの渇望感を生み、たまには全員が集まってチームづくりを目的とした場を共有したい、と私たちに相談が寄せられるようになりました。

②メンバー間相互理解へのニーズの高まり
何気ない会話が減ると、お互いに何を考えているのか、本音が見えにくくなることも事実です。コロナ前の濃密な人間関係から多くを学び経験してきた世代と、それ以降の若手社員とでは、コミュニケーションに対する感覚が異なることもあり、双方がお互いの理解を深めた上で、チームとしての一体感・求心力を取り戻し、チームとしての成果を創出したい、というニーズが高まりました。また、会社の組織改編があった際に、新しい仲間との関係性や組織文化の構築を図るためにチームビルディングが求められることもあります。

③エンゲージメントサーベイの普及
組織の健康状態を定点観測するためのエンゲージメントサーベイを導入している会社も増えていますが、コミュニケーションに関連する課題が多いためか、サーベイ結果分析後の施策としてチームビルディングを行いたい、という相談も増えています。

チームビルディングの実施事例

事例1. 選抜型次世代リーダー育成研修
本研修では参加者同士の学び合いや徹底的な議論による気づきを重視しており、参加者間の遠慮を取り除き距離感を縮めて本音の議論を行うための関係性づくりを目的に、2日間にわたって山中の野外施設で行います。

1日目はチーム課題に取り組みます。チームメンバーを知り、達成すべき課題を理解し、その中での自分の貢献を考え、チームで結果を出す意識を高めていくプロセスを体感します。
アクティビティ毎に与えられるミッションは、メンバーの知力体力を駆使してギリギリ達成可能できる難度設定となっているため、チームで結果を出すことに本気になる仕掛けがあり、メンバー同士本音で対峙することの大切さと難しさ、そして誰一人欠けても達成しえないメンバーシップの醸成を学びます。

2日目は前日育んだメンバーシップを土台に、個人の挑戦をチームメンバーが支援することで、更に結束を高めるフェーズに移っていきます。
例えば、地面から高さ約8mの場所に設置された細いワイヤーロープや丸太を渡る、あるいはクライミング等、一人のメンバーが勇気ある挑戦をし、他のメンバーが命綱を持つことで支援するアクティビティです。仲間を信頼し、恐怖心を乗り越え、またそのプロセスをサポートすることでメンバー同士の結束力を高めていきます。更には仲間と新たな挑戦に向かう覚悟を持つというリーダーとしての気づきや、その後の会社生活において部門を超えて協業できるリーダー同士の横連携が醸成されていきます。

事例2. 一体感醸成プログラム
組織単位の事例としては、部員がお互いの価値観や経験を共有し理解し合う場がなく、コミュニケーションに課題感を抱えている組織に対し、メンバーの価値観や経歴を知ることで相互理解を深め一体感を醸成するプログラムを提案しています。

まずは場づくりとして、お互いに共通点を探る「ヒューマンビンゴ」を実施します。
次に、普段の業務だけではお互い知り得ないような、それぞれが好きなことをプレゼンテーションし合う「ショートプレゼンアワード」や、仕事におけるやりがいや喜びを感じた瞬間をインタビューし合う「ヒーローインタビュー」等を行うことで、多様性に触れ、相互理解を深めていきます。業務外のことから仕事関係の話までステップを踏みながら個々人の価値観に触れることで、お互いの理解深化や組織としての一体感を醸成し、普段の業務遂行につなげていきます。

チームビルディングは、その後の研修での議論や学び合いを効果的にするために使われることもあります。特に三井物産グループの社員が集まる研修では、お互いに「初めまして」の状態から研修が始まります。メンバー間の距離を早期に近づけ、各々の個性や特性を知り、その後の研修でのグループワークを効果的なものにするためにも、チームビルディングのアクティビティは有効です。

三井物産では、自社研修施設の野外スペースにチームビルディング用の簡単な設備・備品を常備しており、こうしたプログラムをいつでも実施できます。課題や対象者に合わせた研修を企画・提案することは私たち三井物産人材開発の役割であり、更に自らがファシリテーターを務めることもあります。当社に新しく加わったメンバーがチームビルディングの有効性や価値を認識し、将来的にファシリテートもできるよう、社内でも同様のプログラムを行っています。

チームビルディングの実践で意識していること

①ゴールと時間のバランス
チームビルディングは、所要時間や根本の課題設定によって、その達成度は異なります。
コンテンツは2時間程度から複数日程で行うものまで様々です。
数時間から半日の短いプログラムの場合は、その後の会議活性化を目的としたアイスブレイクの位置づけで話し易い雰囲気作りに活用されることが多くなります。
一般的には時間を掛ければそれだけ丁寧に参加者の気持ちに沿ったステップが踏め、多様な視点をプログラムに盛り込むことが可能になります。数日にわたるプログラムでは、組織の潜在的な課題を共通認識とした上で、徐々に相互理解と心理的安全性を高め、メンバーの関係性やコミュニケーション導線の変化をもたらすことが期待できます。それにより実施後の参加者のエンゲージメント向上も図っていきます。

また、一過性の関係性づくりで終わらないよう、効果継続のためにフォローアップを後日行う場合もあります。複数日使える場合は、リーダーシップ開発×チームビルディングというように2つの目的を掛け合わせ、個人の成長とチームとして結果を出していくことの双方をゴールとするプログラムも可能となります。このように、ゴールに合わせて時間を設計することもあれば、時間の制約からゴールを調整することもあり、適切なバランスを取ることが重要です。

②手法・理論
チームビルディングの手法は、大きく「体験型」と「対話型」とに分けられます。冒頭に触れた野外活動でフィールドや山林を活用するようなものは「体験型」に分類され、アクティビティ毎に課題に挑戦しながらトライ&エラーを繰り返し、その後の振り返りを通じて気づきを得る、という特徴があります。体験だけだと「楽しかった」で終わってしまうので、振り返りを通じて、メンバー同士がチームのあり方を考え成果を出すためにどのような関わりが必要かを対話し、メンバーのベクトルを徐々に合わせていきます。

「対話型」は、チーム・組織で解決したい課題に関する対話を行い、互いの深い理解や課題の解決に向けたアクションを模索するものです。比較的手軽に会議室でもできる「ワールドカフェ」等の他、近年はレゴブロックを使って気持ちを表現したり、自然の中で“焚火”を囲んで素のトークを行ったりといった、世代を超えて好まれる手法も出てきています。対話型の中には、「クリフトン・ストレングス・ファインダー」のような各種診断ツールを用いて、客観的なデータを元に強みという切口で自分を見つめ直し、相手の強みも知り相互理解を深め、強みの掛け合わせによって組織力向上に活かすことを考えるような内容も効果的と言われています。
仮に、リーダーが特定の人物に固定されがちで、全員の個性が発揮されにくいというチーム課題がある場合は、研修の前半に、「シェアド・リーダーシップ」をテーマに対話し、後半は体験で納得度を高めるようなハイブリッド型のプログラムも有効です。

理論の面では、例えば「体験型」では、元MIT教授のダニエル・キム氏が提唱する「成功の循環モデル」がよく用いられます。メンバー間の思考や行動の質を変える前に、まずは関係の質を高めることの大切さを指摘するこのモデルは、チームビルディングで経験するいくつかのトライ&エラーを通じてメンバー間の関係性を深める際に、重要性を感じてもらうための論拠とする活用方法もあります。
ほかに「タックマンモデル」と呼ばれる、組織形成のフェーズに応じてチームに必要なことが変わる、という考え方も使われます。チームには発達段階があり、出会いから解散までのチーム形成において、人間関係におけるぶつかり合いは必要なプロセスであることを理解し、互いにぶつかることを恐れず、葛藤を乗り越えて個々人のベクトルを合わせることが重要、というものです。例えば、過去にリーダー経験でメンバーが対立してしまいうまくいかなかったことがある人も、チームの発達段階として必要なプロセスであったと自身の経験を捉え直すことができれば、再度チャレンジしようという勇気につながるかもしれません。このように、チームビルディングにおいて体験と理論が組み合わさると、説得力が増していきます。

(タックマンモデル)

今後に向けて

近年、働き方改革が進み、ワークライフバランスを考慮しリモートワーク中心で働く方も増えてきています。また、コロナを経た数年の間に、異動によりメンバーが半分程度入れ替わっているような組織もあります。こうした様々な要因でコミュニケーションの機会が減っている環境の中、足元の仕事をこなすだけではなく、現状以上の成果を創出するための持続的なチームづくりを意図的に行うことがますます重要になってきています。
チームビルディングで大切なことは、チームを構成するメンバー全員が課題を意識し、本音の対話、信頼をベースとした健全なフィードバックができる環境を作ることであり、これらがインクルーシブなチーム運営、チームパフォーマンスの最大化につながっていきます。

経験学習の理論と実践

経験学習の理論と実践

 

私たちが経験学習理論に基づいて実施している研修の中から2つ紹介します。

MMリーダー研修

MMリーダーとはマンツーマンリーダーの略で、新入社員に寄り添って育成を担う社員を指します。この研修はそのMMリーダー向けの研修です。
「人材主義」を最も重要な企業文化の一つとして受け継ぎ、貫いてきた三井物産では、職場における経験や周囲からの指導・育成といった仕事を通じて人材を育てることを人材育成における大切な考え方としています。それを踏まえこの研修では、新入社員育成の背景や考え方、必要な理論などを伝えています。

①「育てる人」を育てることが、会社を強くする
組織が強くあり続けるためには、人材育成が重要であることは言うまでもありません。仕事を通じて、人材を指導していくために必要なスキルや知識を早い段階で知り、実践を通じて人材育成力に磨きをかけていくことは、教える側の成長にもつながります。MMリーダー研修を「育てる人」を育てるための第一歩と位置づけ、約11か月間のプログラムを提供しています。
研修期間中は、経験学習理論を用いながら、中間リフレクションとフォローアップセッションを行い参加者同士で各自の育成経験を振り返ります。新入社員、上司、MMリーダーの三者にサーベイを実施し、客観的なデータをもとに、気づきや持論化を支援することで、経験学習サイクルの実践を促進します。

②「面での育成」で現場をサポート
MMリーダーだけが「点」で新入社員を育成することには限界があります。人が育つ職場には「面=人と人との関わり」があるとの考え方から、職場全体が「面」での育成をする環境を整備しています。
ここではMMリーダーによる新入社員育成をさまざまなメンバーが支援し、そして新入社員がMMリーダー以外のメンバーに自発的に教えを請えるよう、誰が、何に詳しいのかを記した人脈マップを作成し、情報共有することを推奨しています。職場全体が育成に関わることで、新入社員は多くのメンバーとの交流の機会が増え、自分は職場メンバーに受け入れられている(社会的受容)と感じることが、新入社員の職場適応にもつながると考えています。
「面」での育成より新入社員に対する3つの職場支援といわれる、業務支援(業務について教える、助言する)、内省支援(振り返りを促す、客観的な意見で気づかせる)、精神支援(励まし、褒めるなど感情のケア)を、さまざまなメンバーから受けることができるのも大きなメリットです。一方で、複数メンバーからの異なった指示で新入社員が困惑するといった事態も起こり得るため、新入社員に対するOJT計画書を作成し、実施状況を職場内でモニタリングできるようにしています。

③育て上手のMMリーダーの指導プロセス
私たちは大学との共同研究を通じて、育て上手な上司や、育成力があると新入社員から評価されたMMリーダーの指導行動を分析し、「新入社員を育成する5つの指導原則」と「育て上手のMMリーダーの指導プロセス」を抽出しました。
「育て上手のMMリーダー育成に向けた指導プロセス」は、大きく成長支援の準備、成長機会の提供、リフレクション支援の3つのフェーズに分けることができます。成長機会の提供とリフレクション支援では、経験学習の理論に基づいた経験学習シートを新入社員自身が記入し、その内容についてMMリーダーが1on1や日常のフィードバックを通して支援していきます。これを踏まえ研修では、育て上手の指導方法として、1on1やフィードバックのあり方を知識としてインプットします。また受講者間のワークを通して、学んだ知識を試す実践の場も設けています。
MMリーダーの育成力が向上すれば、新入社員の成長度合いも大きくなり、MMリーダーの指導に対する意識がさらに高まるといった好循環が生まれます。こうした循環を通して脈々と培われてきた「人材主義」がさらに浸透していくと考えています。

3年目研修

経験学習理論は、三井物産の入社3年間の育成期間全体に通底する考え方です。新入社員は入社時の研修でそのフレームワークを学び、前述のMMリーダーとの面談やフォローアップ研修の中で実践していきます。そして育成期間の総仕上げとして3年目研修で節目としてのリフレクション(振り返り)を行い、自身の成長軌跡を辿っていきます。

3年目研修では多角的な視点から経験学習サイクルを回していきます。そのポイントは以下のとおりです。

①自分自身での内省・教訓化

まず事前学習で自身の3年間を振り返り、最も自分が成長したと思う出来事を一つ選択します。そして、経験学習のフレームワークに沿って内省を深め、経験からの学びや気づき、教訓を導き出します。

②同期との対話を通じた内省・教訓化

研修ではグループメンバーと事前学習の内容を共有します。同期の成長を確認しつつ、自分の経験を俯瞰することで、同じような経験でも人によって違う学び気づきがあることや、自分の経験も他者からみれば別の捉え方や教訓につながることに気づいていきます。他者の経験を追体験する「代理経験」を得ることもこのセッションのねらいの一つであり、1人30分ほどの時間をかけて、各々の経験をじっくり話し合います。

③先輩社員との対話を通じた内省・教訓化

その後のグループに分かれての討議では、議論の促進者として入社7~8年目の先輩社員がアドバイザーとして関わります。先輩の一段高い視点を知ることで、自身の経験を再度振り返り、内省や教訓を見直していきます。この先輩社員との関わりによって、参加者は多角的な観点から経験学習サイクルを回すことができるようになります。
このセッションの特徴は、失敗の振り返りと同じくらい成功の振り返りをする人が多いことです。一般には失敗から教訓を得ることが多いように思いますが、この研修では成功に甘んじず、成功の原因を突き詰め、成功の再現性を高める教訓化を行う、成功体験からの学びの多さも特徴の一つです。

④グループ討議での新たな経験へのブリッジング

その後、与えられたテーマについての討議に入ります。ここでのねらいは、教訓化した経験を今後どのように適用していくかを模索することです。
ここまでの経験の振り返りを踏まえたうえで、3年後の目指すべき姿を考えることをテーマに、先輩社員のファシリテートのもとグループで議論をしていきます。個人の成長だけでなく組織目線も意識してもらうため、主語を「私」と「私たち」に置き換えることを繰り返しながら徹底的に討議を深めます。その後、主語を「私」に戻して、自分が今後目指すべきゴールを言語化し、そのための具体的なアクションプランを設定します。
研修の最後には、グループ討議の内容と個人のアクションプランを発表し、上司からコメントをもらい、プランを最終化します。

このように研修では、個人・同期・先輩・管理職という多角的な視点から、経験→内省→教訓化→適用という経験学習サイクルを回し、3年間の成長と今後3年の方向性を模索します。入社3年目は育成期間を終え、成長の方向性が変わりうるキャリアの節目でもあり、この時期だからこそ経験学習というフレームワークがとても有効であると考えています。

リーダーシップ開発

リーダーシップ開発

 

当社が実施しているリーダーシップ開発に関する研修事例を2つご紹介します。1つ目は三井物産中堅社員向けに行っている「Leadership Training」、そしてもう1つは三井物産グループ会社社員向けに行っている「リーダーシップ強化研修」です。

事例1. Leadership Training

本研修は、リーダーシップに関する理解と実践を通じて行動変容を促すことを目的としています。管理職になる直前の三井物産社員を対象としており、現場の仕事を推し進めるプレイヤーとしての役割から、関係会社に出向するなど、マネジメントを担うような役割への転換期に、改めてリーダーシップに関する理解促進と意識醸成を行うものです。
研修は全4日間で構成されており、2日間の集合研修(Day1~2)の後、設定したリーダーシップに関するアクションの実践期間としてインターバルを約1か月間挟み、再度2日間(Day3~4)集まって実践の振り返りをグループで行い、リーダーシップの更なる実践に向けたブラッシュアップを行います。

①学び(知識・スキル)と実践(経験学習)の往復
この研修は、知識・スキルの提供と経験学習の両方をバランスよく組み込んだ構成となっています。導入であるDay1~2では、リーダーシップに関する知識・スキルに関するインプットの比重を多くし、リーダーシップ意識の喚起やそのための学習を重視しています。その後のDay3~4では、学びの実践やその振り返りを通して、自らのリーダーシップに関する自信を深めてもらいます。特に私たちが重要だと思っているポイントは、Day1~2とDay3~4の間の約1か月のインターバルで、リーダーシップ発揮に向けた具体的な持論やアクションプランを基に実践してもらうことです。リーダーシップは、理論を学んで頭で理解しても実践はなかなか難しく、「わかる」と「できる」は違う、という体感を得ることによって、リーダーシップの習得と実践を研修後も続けられるような意識醸成を企図しています。

②総合商社だからこそ「シェアド・リーダーシップ」
Leadership Trainingでは、一人ひとりにあったリーダーシップを考えてもらうなかで、「シェアド・リーダーシップ」を紹介しています。総合商社では、部門によって商材もサービスも全く異なり、本社勤務のみならず、海外や出向先など働く環境や所属組織も多岐にわたります。そのため、メンバー全員がリーダーとして動く前提のもと、一人ひとりが自分の強みを活かしたシェアド・リーダーシップの考え方も有効と考えています。

受講者からは、リーダーシップのイメージが「カリスマ型」や「牽引型」であることが多いからか、「リーダーシップは管理職になって初めて発揮するもの」という声がよく聞かれます。この考えを払拭すべく、当社独自で作成したケーススタディを行い、役職によらず、様々なリーダーシップが発揮されたケースを分析・考察することで、自身のリーダーシップを探究するきっかけを提供しています。

事例2. リーダーシップ強化研修

この研修は、自身の強みを活かしたリーダーシップを開発することを目的に実施しています。対象は特定の年次や年齢層ではなく、対象の三井物産グループ各社が定めるリーダーやリーダー候補者です。

①3~4か月かけて自身のリーダーシップと向き合う機会
この研修は、受講者全員が集まって実施する期間は2日間ですが、事前・事後課題も合わせると3~4か月ほどかけて自身のリーダーシップと向き合います。研修前の上司面談や研修中の360度アセスメント結果に加え、研修後の受講者同士によるピアコーチングや講師とのコーチングセッションなど、3~4か月の間に受講者は複数の関係者からフィードバックを得て、自身の行動に反映できるような設計にしています。周囲の巻き込みや上司の支援によって、受講者が現場で試行錯誤するからこそ、本研修は職場インパクトが大きい研修の1つとして三井物産グループ各社に認知されています。

②周囲が実感する受講者の行動変容
実施にあたり、研修前・研修後に上司と3回の面談を設定します。1回目は、研修に先立って行うものです。研修受講で特に学んで欲しいことや得て欲しい気づきなどを受講者と上司間で共有し合うことで学びの動機付けをします。研修直後に設定する2回目の上司面談では、研修で学習したことやアセスメント結果を踏まえてその後に取り組むことを報告します。最後の3回目は、研修から3か月後に行います。受講者が自身のリーダーシップを職場で実践する中で、どのような変化があったかを上司からフィードバックする時間としています。
実際に3か月の取組終了後に行う上司へのアンケートでは、「率先して業務に向き合う姿勢に変化がみられた」「メンバーへの育成を積極的に行うようになった」などの声が聞かれ、現場における受講者の行動変容が起きていることを実感します。研修当日の学びだけでなく、その後も継続して周囲からもサポートを行うことで、受講者本人のみならず職場に変化をもたらす有効なプログラムとなっています。