人材育成
質的研究法「M-GTA」を活用した研修プログラム設計(第4回)
最終回となる今回は「分析結果を用いた研修プログラム設計」がテーマとなります。
初学者の分析ではありますが、分析結果を自分の担当業務に落とし込んだ経験からの学びを共有いたします。
私と同じ研修担当者の方々が、M-GTAの分析結果を研修プログラムに活用する際の参考になれば幸いです。
分析結果を活用するために大事なこと:分析テーマからブレない
分析結果を実務で活用していく上で大事だと思ったことは、分析テーマからブレないことです。
当たり前のことであり、お恥ずかしい限りですが、初学者の私が経験した難しさをお話させていただきます。
◆ステークホルダーの影響
昨年の夏、事業経営人材育成プログラム新設プロジェクトの企画担当を担うことになりました。第2回でご紹介しましたとおり、分析テーマは「事業経営人材の出向先会社での経営手腕発揮までの行動プロセス」、分析焦点者は「出向先会社での事業経営経験をもつ人材」と設定し分析をスタートしました。
プロジェクトの途中で経営幹部の一部から「事業経営人材は、出向先会社での手腕発揮に限らず、もっと広義にとらえるべきではないか」という意見が出たことを受け、プロジェクトの中で「プログラム案の見直し」の議論が行われることになりました。このときから分析結果の活用がブレ始めました。
◆分析結果に対する自信の無さからの迷い
私も自分の分析結果に強い自信を持てず、プログラム案の見直し議論の中では、安易にそれを受け入れる発言をしてました。「とにかくプロジェクトを実行フェーズに進めたい!」という意識になり、分析者として分析結果の正しい活用を求めるより、周囲のコメントと折り合いをつけて研修プログラムとして一日も早くスタートすることに傾倒し始めていました。その結果、自社固有の課題であるはずの分析結果との関連性が弱くなり、どんどん一般化され、特徴の弱いプログラムになっていきました。
一方、M-GTAを用いサイエンスにバックアップされた分析結果に重きを置く上司(分析の協力者)からは、「周囲のコメントを簡単に受け入れすぎだ」と指摘され、板挟みに苦しむ時期がありました。
◆分析テーマに立ち返る
上記のような時期に、また違う経営幹部に相談に行った際に「尖っていることに意味がある。インタビューしたのは実際に出向先で経営手腕を発揮した人たち。そこから導き出された課題にもとづく研修プログラムなら、対象を絞り、目的を先鋭化させ、徹底的に尖らせてみては。」というコメントをもらい、ハッとしました。
自分の分析テーマは「出向先での経営手腕発揮までの行動プロセス」であり、そこから導き出される研修プログラムは同じ分析焦点者に対してこそ有意義であるということに思い至りました。
プログラム設計時に工夫したこと
最後に、今回の分析結果を研修プログラム設計に活用する際に工夫したことを2つご紹介させていただきます。
※分析結果の詳細は、第3回でご覧ください。
①:出向時の役割に応じた育成
インタビューデータの中には、プログラムのヒントとなるコメントが多くありました。
その中から「出向時の役割」に関連したコメント着目をしました。
「部長として赴任した際には、○○〇が必要となる」
「部長時とは異なり、役員には○○〇が求められる」
同様のコメントを拾い集め、縦軸に「出向時の役割」、横軸に「育成の重点カテゴリー」をとった以下の表に整理しました。また、「若手のうちに〇〇を鍛えられたことが役に立った」というコメントに着目し、縦軸に「若手(出向者候補)」を追加することとしました。
これまでの経営力強化を目的としたプログラムは「網羅的な内容を、長期間で学習する」という形式が多かったのですが、このように整理することで「役割に沿った内容を、短期間で学習する」というプログラムデザインが出来ました。「なぜこのタイミングで、この内容を学ぶ必要があるか」を、以前よりわかりやすく説明が出来ることで、研修参加者の「学ぶことへ納得感」を醸成できると考えています。
②:インタビュー協力者の講師登壇
21名の方々へのインタビューを通じて、「この迫力のあるリアルな体験談を聞くこと自体が、大きな学びになる」と強く感じました。特に、カテゴリー「経営人材の素養」に含まれる概念「最終意思決定者としての覚悟」の形成には体験談が活用できると思い、役員向けプログラムに「先輩経営者から講話」を導入することを提案しました。
以上、M-GTAを活用し、サイエンスにバックアップされた研修プログラムを企画するにあたって具体的に工夫したポイントを紹介させていただきました。この研修が良いもの評価され、長く続くものとなり、将来このプログラムの受講者が先輩経営者の講師として戻ってきてくれるサイクルが実現したら嬉しいです。
今回も長文にお付き合いいただきありがとうございました。
これで、第1回から全4回にわたる「M-GTA」を活用した研修プログラム設計に関するレポートを終えます。
今後も、当社取り組みに関するレポートを、本ページにて掲載していく予定ですので、フォローしていただけますと幸いです。