人材育成
誰でもできる!ケーススタディ作成のコツ②(全5回)
私たち三井物産人材開発は、日々多くの方が発信してくださる情報を業務や学びに活かしています。当社における取り組み事例が、企業での人材開発にたずさわる皆様に少しでもお役に立てることがあればと思い、取り組み内容についてご紹介します。今回はケース作成の要となるインタビューについてです。
対象者の選定
前回のシリーズでも述べましたが、インタビューは関連資料だけでは把握できない周辺情報を収集することを目的に行います。その為、インタビューの対象者はケースメソッドの当事者であることが大前提になります。人数については、一つの事象を多面的・多角的に捉えるため、弊社では通常3名以上にインタビューを行っています。
対象者選定の基準はテーマや学びのポイントによって異なります。例えば長期にわたるプロジェクトの場合は「時間」を軸に選定します。時間の変遷とともに担当者が変わることが多いため、その時々の対象者を選定し、その時々の課題や施策、当時の状況を踏まえた意思決定の背景を聞き取ります。
一方、時間軸で区切れないテーマの場合は、経営層・上司・部下・同僚といった役職や営業とコーポレートといった部門の「立場」を軸に対象者を選出することもあります。その案件が、それぞれ異なる立場からどのように映り、どう捉えたかをヒアリングします。
ここでお伝えしたいポイントは、一つの事象を多面的・多各的な視点で、捉えることが重要ということです。現実の職場でも一つの事象に対し様々な意見や解釈があるように、同様のことをケースで疑似体験し、考えることはダイバーシティを見つめなおす良いきっかけにもなると思います。さらに、作成したケースを用いた研修においても、参加者に多面的な視点を与え、ディスカッションが活性化され、学びを深めることに繋がります。
事前の準備
前段でも述べましたが、インタビューは資料では読み取れない情報を収集することが目的ですので、まずは案件の関連資料には必ず目を通し、案件概要を把握したうえで臨んでください。案件の提案資料や稟議書等の社内資料は可能な限り入手し、業界概要等の一般知識はインターネットや書籍で事前にインプットしておくと、インタビューの際に深堀した質問ができるようになり、後々のケースライティングの際に役立ちます。
インタビューの際は事前に質問項目を考え、インタビューイーに内容を伝えておくことも重要です。自分のみならずインタビューイーにとっても論点が整理できるとともに、準備の時間が確保できるため、インタビューで詳しい回答を得られやすくなります。もちろん、インタビューの際に新しい質問や意見が生じた際は、都度その場で確認しながら進めていきます。
尚、事前に質問を用意せずにインタビューを実施する手法もあります。目新しくユニークな意見を引き出しやすい反面、インタビュー内容を集約しづらく、聞き手の技量がかなり求められるため、慣れない方にはお勧めできません
質問項目の設定は、ケースの良し悪しを決める重要な要素になります。まず、ケーススタディで狙いとしている学びのポイントや想定しているケーススタディの設問は必ず聞くようにしてください。例えば、ケーススタディの学びのポイントがコミュニケーションの重要性とするならば、上司・部下とのコミュニケーション頻度やコミュニケーションするうえで工夫した点等、コミュニケーションに関する質問をいくつか設定し、インタビューで内容を深堀して聞いていきます。そうすることで、後々のケースライティングの際に学びのポイントを中心にしたストーリーを書くことができ、結果として受講者の気づきにつながりやすくなります。
2点目のポイントは、インタビューイーの経歴です。例えば新規ビジネスの立ち上げに関するケースの場合、新規ビジネス案件立ち上げに携わるまでの経験を聞くことで、当事者の想いや案件に関わる人脈がどのように形成されたかを時系列的に把握することができます。これまで、数多くの案件開発に関するインタビューを実施していますが、折れない信念や軸といった個人の想いが案件形成にはが重要な要素であることがわかってきました。ケーススタディのテーマ次第ですが、研修参加者には是非とも気付いてほしいポイントです。
3点目のポイントは、案件そのものを深堀する質問です。案件の立ち上げ理由、提案に対する周囲の反応、そして、最も重要になるのが案件を推進していく中での課題や難所に関する具体的な情報です。特にその課題をどのように乗り越えたかは、参加者にとって大きな学びとなり、参加者の実務においても参考になります。
インタビューの際のポイント
インタビュー時間は、概ね1回あたり長くても1時間を目安に行います。インタビューイーには、仕事の合間を縫って協力してもらいますので、必ず時間内に終了するようテンポよく進行することが肝要です。ライティングを進めていくと、更に詳しく聞きたいことも出てきますので、その後のことを踏まえるとインタビューイーの心象を悪くすることは避けたいところです。インタビューは正確なデータを引き出すことが重要ですので、負のバイアスがかからないように気をつけてください。尚、対象者一人に対しての複数回のインタビューは一般的に行われています。
インタビューの際は、必ず質問項目をプリントアウトし項目に沿って内容をメモするようにしましょう。また、ボイスレコーダーを使用すると後々のライティングの際に役立ちます。尚、弊社ではインタビューを録画・編集し、一部編集したうえで研修教材として使用することもあります。当事者の想いや声が参加者に直に伝わり研修効果が一層高まります。最近は操作が容易な動画編集サービスも多数ありますので、高額な専門業者に依頼せずとも比較的容易に作成することが可能です。録画をする場合は、インタビューイー人選の際に伝えておくと協力が得られやすくなります。
以上、インタビューのポイントを述べてきました。当社内での事例ですし、私たちも学びの途上ですので、あくまで一つの参考情報としていただければ幸いです。次回は、ケースライティングのポイントについてご紹介します。